この記事でわかること
- 東京都に寄せられたトコジラミ相談件数の、平成17年度から令和2年度までの実数
- 成虫の大きさ・寿命・産卵数・ふ化日数といった生態の数値
- 各地で採集された個体の、殺虫剤に対する致死率の試験結果
- 公的機関が「家庭での対策だけでは駆除が困難」としている理由
- 加熱・冷却・吸引など、薬剤以外の方法について資料が示している条件
この記事は、トコジラミの発生状況と対策について、自治体と国が公表している資料に載っている数値だけを取り出して整理したものである。推計や独自調査は含んでいない。
使ったのは、東京都福祉保健局のパンフレット「知っていますか? トコジラミ」(令和4年3月発行)である。
もう一つは、厚生労働省の令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会資料「衛生害虫トコジラミに対する対策について」である。
東京都の相談件数は、20年でどう動いたか
東京都福祉保健局のパンフレットには、都に寄せられたトコジラミの相談件数が年度別に掲載されている。まずこの16年分をそのまま並べる。
平成17年度は26件、令和元年度は458件だった。この間は単調に増え続けたわけではなく、増加と減少を繰り返している。
| 年度 | 相談件数(件) | 前年度からの動き |
|---|---|---|
| 平成17年度 | 26 | — |
| 平成18年度 | 75 | 増加 |
| 平成19年度 | 63 | 減少 |
| 平成20年度 | 65 | 増加 |
| 平成21年度 | 165 | 増加 |
| 平成22年度 | 245 | 増加 |
| 平成23年度 | 255 | 増加 |
| 平成24年度 | 342 | 増加 |
| 平成25年度 | 303 | 減少 |
| 平成26年度 | 301 | 減少 |
| 平成27年度 | 360 | 増加 |
| 平成28年度 | 278 | 減少 |
| 平成29年度 | 255 | 減少 |
| 平成30年度 | 354 | 増加 |
| 令和元年度 | 458 | 増加 |
| 令和2年度 | 320 | 減少 |
件数が100件を超えたのは平成21年度が最初で、それ以降は一度も100件を下回っていない。平成17年度から平成20年度までは、いずれも100件未満にとどまっていた。
最も多いのは令和元年度の458件で、翌令和2年度は320件に減っている。このパンフレットは令和4年3月発行で、収録されている数値は令和2年度までである。
平成25年度から平成29年度にかけては、300件台から200件台へと下がる年が続いた。その後、平成30年度と令和元年度に再び増えている。
この表の数値は「相談件数」であり、発生件数でも被害者数でもない。相談されなかった被害はこの数に含まれない。
出典と読み方
東京都が発行した住民向けパンフレットに掲載された、都へのトコジラミ相談件数の年度別推移である。集計対象は東京都であり、全国の数値ではない。
出典: 東京都福祉保健局「知っていますか? トコジラミ」令和4年3月発行(登録番号(3)403)
- 東京都の相談件数は平成17年度26件、令和元年度458件で、この16年間の最少と最多にあたる
- 平成21年度に初めて100件を超えて以降、100件を下回った年度はない
- 増減を繰り返しており、右肩上がりの一本調子ではない
生態を数字で押さえる。増え方の速さがすべての前提
トコジラミがどれくらいの大きさで、どれくらいの速さで数を増やすのかは、駆除の難しさに直結する。パンフレットに記載されている数値を表にまとめる。
| 項目 | 記載されている内容 |
|---|---|
| 成虫の大きさ | 5mm〜8mm |
| 体型・色 | 丸く扁平でとても薄い。色は褐色 |
| 成虫の寿命 | 3〜4か月 |
| 産卵数(1日あたり) | メス1匹あたり5〜6個 |
| 産卵数(生涯) | メス1匹あたり200〜500個 |
| ふ化までの日数 | 約1週間(5〜11日) |
| 幼虫から成虫まで | 1〜2か月 |
| 食性 | 人や動物の血液だけをエサとする |
| 絶食耐性 | 吸血しなくても長期間生きることができる |
| 活動時間 | 夜、部屋の隙間等から出てきて活動する |
メス1匹が生涯に200〜500個の卵を産み、卵は5〜11日でふ化し、1〜2か月で成虫になる。この周期の短さが、発見が遅れたときの増え方を決める。
吸血しなくても長期間生きられるという点も重要である。人が部屋を空けても、それだけでいなくなるわけではない。
刺されたときの症状には個人差がある。初めて刺された人は症状が出ないこともあり、長期にわたり刺されたことでかゆみを感じなくなることもある。
吸血は夜間に行われることが多く、寝ている人の手や足、首など露出している部分が狙われる。非常に強いかゆみが生じるとされている。
パンフレットは、強いかゆみによって寝不足などの精神的な影響を受けることもある、と記している。
生息場所として資料が挙げているのは、次の場所である。いずれも暗くて温かい場所という共通点がある。
- ベッドの隙間や裏、マットレスの中
- カーテンの折り目の間、カーペットの下
- ソファの隙間、家具と壁の間、額縁の裏
- 布団やまくらの中、畳の縁
- 床・柱・壁・天井の隙間、押入れ
- 電化製品の裏や内部、障子、掛け軸の裏
生息している場所には「血糞」という黒いしみが多く見られる、とパンフレットは説明している。虫そのものより先に、この黒いしみで気づく場合がある。
出典と読み方
大きさ・寿命・産卵数・ふ化日数は、いずれも東京都のパンフレットに記載された数値をそのまま転記したものである。飼育条件などの詳細は同パンフレットには記載がない。
出典: 東京都福祉保健局「知っていますか? トコジラミ」令和4年3月発行(登録番号(3)403)
市販の殺虫剤が効きにくい個体がいる、という試験結果
厚生労働省の令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会の資料には、各地から採集したトコジラミの殺虫剤感受性を比較した結果が載っている。この記事の中心はここである。
比較されているのはピレスロイド(ペルメトリン)と有機リン(フェニトロチオン)で、いずれも「3日後の致死率(%)」として示されている。
| 採集地 | ピレスロイド(ペルメトリン)3日後の致死率 | 有機リン(フェニトロチオン)3日後の致死率 |
|---|---|---|
| 帝京大 | 100% | 100% |
| 富山 | 96.7% | 96.7% |
| 成田 | 90.0% | 100% |
| 千葉 | 6.7% | 100% |
| 大阪 | 6.7% | 100% |
| 滋賀 | 3.3% | 100% |
| 京都 | 6.7% | 100% |
| 浜名湖 | 3.3% | 100% |
| 防府 | 3.3% | 15.0% |
| 大分 | —(データなし) | 100% |
ピレスロイドの列を見ると、帝京大・富山・成田は90.0%以上である。一方、千葉・大阪・滋賀・京都・浜名湖・防府は3.3%から6.7%にとどまっている。
同じ薬剤でも、採集地によって結果がまったく違う。
有機リンの列では、防府の15.0%と富山の96.7%を除き、掲載された地点はすべて100%である。ピレスロイドで効きにくかった地点の多くが、有機リンでは100%になっている。
一方で防府は、ピレスロイドが3.3%、有機リンが15.0%と、両方の系統で低い値になっている。表の中でこの地点だけが二つとも低い。
これは各地から採集した個体を試験した結果であり、その地域にいるトコジラミすべてがこうだという意味ではない。市販製品そのものの試験結果でもない。
資料は、この抵抗性を含めて蔓延の背景を整理している。挙げられているのは次の内容である。
- 生息や持ち込みに気づきにくい(小さい・夜間活動性・トラップで捕獲しにくい)
- 気づいても駆除が困難(殺虫剤を到達させにくい、ピレスロイド抵抗性、宿泊施設では全館同時駆除が困難)
- 人の移動が増大
- 管理者の意識の低さ(客に知られたくない、安価に駆除したい、殺虫剤で簡単に駆除できるという思い込み)
「殺虫剤で簡単に駆除できるという思い込み」が、蔓延の背景として名指しで挙げられている点は押さえておきたい。
同じ資料は、2024年時点で国内においてトコジラミ駆除を標榜する主な殺虫成分も列挙している。
| 系統 | 成分 |
|---|---|
| 有機リン | フェニトロチオン、プロペタンホス、ジクロルボス |
| カーバメート | プロポクスル |
| オキサジアゾール | メトキサジアゾン |
| メタジアミド | ブロフラニリド |
| ピレスロイド | ペルメトリン、エトフェンプロックス、フェノトリン |
感受性試験で地点差が大きかったピレスロイドも、成分の一覧には含まれている。系統が複数あることと、どの系統が効くかは別の話である。
なお同資料は、2015年に国内で80年ぶりにネッタイトコジラミが発見されたことにも触れている。
出典と読み方
致死率の数値は、各地から採集したトコジラミの殺虫剤感受性を比較した試験(皆川2013/數間2013)の結果として同資料に掲載されている。
値はいずれも「3日後の致死率(%)」である。大分のピレスロイドは同資料に数値が示されていない。
出典: 厚生労働省 令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会 資料「衛生害虫トコジラミに対する対策について」橋本知幸(一財)日本環境衛生センター/2024年2月16日
- ピレスロイドの3日後致死率は、地点により3.3%から100%まで開きがある
- 有機リンは掲載10地点のうち8地点で100%だが、防府は15.0%にとどまる
- 資料はピレスロイド抵抗性を、蔓延の背景のひとつとして明記している
公的機関が「家庭の対策だけでは難しい」としている理由
東京都のパンフレットは、家庭での対策だけで駆除することは困難だとはっきり書いている。その根拠として示されている点を順に見る。
まず、一般的な殺虫剤はトコジラミに効果がない場合もある、とされている。前章の感受性試験の結果と対応する記述である。
くん煙殺虫剤を使用することで、かえって生息範囲が広がってしまうこともある、とパンフレットは注意している。手近な対策が状況を悪くする場合がある。
厚生労働省の研修会資料も、駆除が困難な理由として「殺虫剤を到達させにくい」ことを挙げている。トコジラミが隙間の奥に潜むためである。
公的資料が示している、家庭での対応が難しくなる要因を整理すると次のようになる。
- 成虫でも5mm〜8mmと小さく、夜間に活動するため気づきにくい
- ベッドの内部、家具と壁の間、電化製品の内部など、薬剤が届きにくい場所に潜む
- 一般的な殺虫剤が効かない場合があり、ピレスロイド抵抗性が確認されている
- くん煙殺虫剤で生息範囲が広がることがある
- メス1匹が生涯200〜500個産卵し、卵は5〜11日でふ化する
これらを踏まえ、パンフレットは対応の手順を示している。血糞やトコジラミの特徴を持った虫が見つかった場合は、早急に専門業者に見てもらい駆除を行うよう案内されている。
発生の要因についても記載がある。家庭等で発生する要因は、荷物等と共に外から持ち込まれることと考えられている、というものである。
問い合わせ先は、住んでいる地区を管轄する保健所とされている。どこに聞けばよいかが資料に明記されている点は確認しておきたい。
出典と読み方
「家庭での対策だけで駆除することは困難」「専門業者に見てもらう」「問い合わせ先は管轄の保健所」は、いずれも東京都のパンフレットの記載である。
特定の事業者名は、同パンフレットには示されていない。
出典: 東京都福祉保健局「知っていますか? トコジラミ」令和4年3月発行(登録番号(3)403)/厚生労働省 令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会 資料「衛生害虫トコジラミに対する対策について」橋本知幸(一財)日本環境衛生センター/2024年2月16日
薬剤以外の方法について、資料が示している条件
厚生労働省の研修会資料は、駆除戦術として薬剤以外の方法も挙げている。いずれも「トコジラミ読本2013」からの引用として、条件と致死率が数値で示されている。
| 方法 | 条件 | 資料に示された結果 |
|---|---|---|
| 加熱 | 49℃で1分暴露 | 100%致死 |
| 加熱 | 41℃で100分暴露 | 100%致死 |
| 冷却 | −20℃ | 比較的速やかに100%致死 |
| 冷却 | −1.5℃ | 40日程度で100%致死 |
| 吸引 | 外国製掃除機で吸引した直後 | 55%致死 |
| 吸引 | 同・1日後まで | 92%致死 |
| 寝具対策 | 洗剤水に30分間浸漬 | 0%致死 |
| 寝具対策 | 洗剤水に120分間浸漬 | 70%致死 |
| ゼオライト(擦過傷) | 5g/㎡に24時間強制接触 | 100%致死 |
加熱は、温度が下がるほど必要な時間が延びる。49℃なら1分だが、41℃では100分の暴露が条件として示されている。
冷却も同じ構造である。−20℃では比較的速やかに100%致死とされる一方、−1.5℃では40日程度かかるとされている。
寝具の洗剤水への浸漬は、30分間では0%、120分間で70%である。時間が足りなければ効果が出ないことが数値ではっきり示されている。
これらは条件が満たされた場合の数値である。ゼオライトの100%致死も「5g/㎡に24時間強制接触」という条件つきで、置くだけの結果ではない。
吸引は、直後で55%、1日後までに92%とされている。100%ではない点と、外国製掃除機での結果である点が資料に明記されている。
出典と読み方
この表の条件と致死率は、厚生労働省の研修会資料が「トコジラミ読本2013」から引用した駆除戦術の数値である。家庭の設備で同じ条件を再現できるかは、同資料に記載がない。
出典: 厚生労働省 令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会 資料「衛生害虫トコジラミに対する対策について」橋本知幸(一財)日本環境衛生センター/2024年2月16日
- 加熱は49℃で1分、41℃で100分と、温度が低いほど長い暴露時間が必要になる
- 冷却は−20℃で比較的速やかに、−1.5℃では40日程度で100%致死とされる
- 洗剤水への浸漬は30分で0%、120分で70%と、時間によって結果が大きく変わる
この分野でよく聞かれること
Q. 相談件数が減った年は、被害も減ったのか
この資料からは判断できない。掲載されているのは東京都に寄せられた相談の件数であり、発生件数や被害者数ではないためである。
たとえば令和2年度は320件で前年度の458件より少ないが、その差が被害の増減を意味するとは資料に書かれていない。
Q. なぜ薬剤の効きに地域差が出るのか
厚生労働省の研修会資料は、蔓延の背景のひとつとして「ピレスロイド抵抗性」を挙げている。地域差の原因そのものを解説してはいない。
感受性試験では、ピレスロイドの3日後致死率が帝京大の100%から滋賀・浜名湖・防府の3.3%まで分かれている。同じ系統でも採集地によって結果が異なる。
Q. 家庭でできることは何か
東京都のパンフレットは、家庭での対策だけで駆除することは困難としたうえで、血糞やトコジラミの特徴を持った虫が見つかった場合は早急に専門業者に見てもらうよう案内している。
くん煙殺虫剤については、使用することでかえって生息範囲が広がってしまうこともあるとされている。発生要因は荷物等と共に外から持ち込まれることと考えられている。
Q. 宿泊施設向けの資料はあるか
厚生労働省の令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会の資料が、宿泊施設に関わる記述を含んでいる。生活衛生関係の技術担当者向けに行われた研修会の資料である。
同資料は、宿泊施設では全館同時駆除が困難であることを、蔓延の背景として挙げている。
あわせて、管理者の意識の低さ(客に知られたくない、安価に駆除したい、殺虫剤で簡単に駆除できるという思い込み)も挙げられている。
Q. どこに相談すればよいか
東京都のパンフレットは、問い合わせ先として、住んでいる地区を管轄する保健所を示している。
相談窓口や受付方法は自治体ごとに異なるため、必ず公式サイトで確認してほしい。
まとめ
東京都の相談件数は平成17年度の26件から令和元年度の458件まで動き、国の研修会資料は殺虫剤の効きに地点差があることを数値で示している。
いずれも公表されている資料に載っている数値である。
- 東京都の相談件数は平成21年度に初めて100件を超え、以後は100件を下回っていない。最多は令和元年度の458件
- メス1匹が生涯200〜500個産卵し、卵は5〜11日でふ化、1〜2か月で成虫になる
- ピレスロイドの3日後致死率は3.3%から100%まで地点差があり、有機リンでも防府は15.0%にとどまる
- 東京都は家庭での対策だけでの駆除は困難とし、専門業者への相談と管轄保健所への問い合わせを案内している
この記事で参照した資料
東京都福祉保健局「知っていますか? トコジラミ」令和4年3月発行(登録番号(3)403)
厚生労働省 令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会 資料「衛生害虫トコジラミに対する対策について」橋本知幸(一財)日本環境衛生センター/2024年2月16日
最終確認日: 2026年8月2日

